ロミオの嘘とジュリエットの涙
 四つ年上の透は物心ついたときから私のそばにいて、誰よりも私を大事にしてくれる大好きな存在だった。とはいえ、それは兄という立場があってこそだったのかもしれない

 友達のお兄ちゃんはガサツで意地悪だったりしたけれど、透は違った。

 四歳という年の差を差し引いても、いつも優しくてかっこいい透は自慢の兄で、小さい頃は「透と結婚する!」と本気で周りに宣言していたくらいだ。

 それが無理だと知っても、私の気持ちは変わらなかった。

 そうはいってもいつまでも『大好きだ』とは言えない。思春期に入り、自分の想いを隠し通すためわざと反抗的な態度をとったりもした。

 それでも変わらずに優しく接してくる透が、苦しくてつらかった。

 高校生になり周りは彼氏を作る中でも、私の透への気持ちは褪せることなく誰にも言えず抱えたままだった。

 純粋な恋心はいまや重たくどす黒い塊となって私の中に住み続けている。

 透と物理的に離れれば、彼が結婚すればこの気持ちは消えるの?

 ついに耐え切れずに自分の気持ちを彼に伝えたとき、なにもかも終わったと思った。積み重ねてきた関係がすべて壊れる。気持ち悪いと嫌悪され、もう二度とあの笑顔を向けてくれない。

 でも、私のものにならないのならもうどうなってもかまわない。優しいお兄ちゃんはいらないの。

 黒い気持ちが支配して暴走した結果だった。

『……俺も、結が好きだよ』

 ところが、透の口からはあまりにも予想していない返事があった。夢か(うつつ)か冗談か。呆然とする私に透が力強く宣言する。

『結を妹だと思ったことは一度もない』

 その言葉に涙が流れ、私を巣食っていた禍々しい気持ちが溶けていく。そんな私とは対照的に透は笑っていた。

 涙で視界が滲み、しっかりとその顔は見えなかったけれど彼は笑っていたの。
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