ロミオの嘘とジュリエットの涙
『なぁ、結。俺とずっと一緒にいたいか?』

 意外にも心中を持ちかけてきたのは透の方だった。最初はなんの冗談かと思ったけれど、彼の目は本気で私はしばらくなにも返せなかった。

 今は親に隠れてこうしてコソコソとふたりで恋人同士の時間を楽しみ、そばにいられるだけで幸せを感じる。

 でもそれは所詮、一過性のまやかしだ。私たちが共に歩む未来は存在しない。先はないんだと現実を突きつけられる。

 なら諦める? 簡単にできたら兄である透をこんなにも好きになったりしない。彼だって同じだ。

 だから悟った。私たちがふたりで幸せになるためにはこの方法しかないんだって。 

 曾根崎心中、ロミオとジュリエット……。

 古今東西、心中を題材にした物語は多くの人を魅了して語り継がれている。だからきっと珍しいことじゃないんだ。

「毒にしようか」

 ゆるゆると話を進めていく透に私は小さく頷く。

「あまり苦しまずに逝けるのがいいな」

 まるでデートの行き先を決めるかのように死に方をふたりで考える。結果、毒で落ち着いた。

 透に言わせると毒の入手は比較的簡単らしい。今はインターネットでなんでも手に入る時代だ。

「できれば死ぬ瞬間まで抱き合っていたい」

 死に顔が不細工になるのは嫌だ。それを透に見られるのも。透は呆れたような、それでいて優しい表情で私の頭を撫でる。

「わかった。遅効性のものを用意するよ」

 そうやってなんだかんだ言って、いつも私のワガママを聞いてくれる。あれがいいだろうかと毒の名前を口にして悩みだす透をしっかりと目に焼き付ける。

 聞いたことがない毒だけれど、私はその名をしっかりと頭に刻み込んだ。

「ありがとう、大好き」

 こんな私たちを短絡的だって世間は笑うのかな? 両親にはとてもつらい思いをさせる。けれどどんなに嘆いても、だれも自分を幸せにはしてくれない。

 なら幸せは自分で掴まないと。その方法がたまたま心中だっただけ。

 どうして? どうして私は透と血の繋がった兄妹なの?

 キスするたびにチクチクと胸が痛むのは罪悪感や背徳感から?

 彼に愛されていると信じて疑わない気持ちに、いつも黒い影が付きまとうのはなぜ?

 信じたい、信じてる。

「透、大好きだよ」
 
 この口が動くまで彼への愛を言葉にしたい。大丈夫、複雑な葛藤も、もうすぐ全部終わるから。
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