ロミオの嘘とジュリエットの涙
 いよいよその日はやってきた。

 両親は用事で出かけていていない。家には透とふたりきりだ。明日、私は進学する大学のある県に引っ越す。今日しかない。

 最期だと思って張り切ってメイクをして髪も整え、一番のお気に入りのワンピースに身を包む。

 真っ白のフリルのついた春らしいデザイン。これを着て透でデートが出来たらどんなに幸せだろうと想像して買った。

 この私の姿を見たとき、透はすかさず『可愛いよ』と言ってくれた。見た目に力を入れた私とは違い、透はいつもとなんら変わらない。ジーンズに黒のパーカー。

 けれど私のよく知る透そのものだ。

「結、本当にいいのか?」

 透はふたつグラスにミネラルウォーターを注ぎ、用意した粉を半分ずつ溶かした。私はそんな彼の一連の動作をじっと見つめる。

「その毒、すごく苦いみたいだね」

 透はグラスの中を混ぜていたスプーンを止めた。

「それはどうしようもないな。ただ、ゆっくりと楽に逝けるみたいだから」

 声に緊張が混じっているのが伝わる。無理して笑っているのが見え見えだ。スプーンをグラスから抜いて机の上にそのまま行儀悪く置くと、彼はその場を一歩離れた。

 両親への精いっぱいのフォローを綴った遺書も用意した。もうなにも未練はない。

 透はどうなんだろう? 透は――。

「ほら、結。好きな方を選べよ」

 公平を期してか、透は先に私を促す。考えを中断させ、少しだけ迷ってから私は彼に近い方のグラスに手を伸ばした。
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