王子のパンツを盗んで国外逃亡させていただきます!
出会ってしまった!
出会ってしまった!!
遂に『彼』と『ヒロイン』が出会ってしまった!
彼のアメジストの瞳が、この国の第一王子との邂逅に緊張で震える彼女を映す。
肩までの焦茶の髪を可愛らしくアップにして。ほっそりとした肢体を包むドレスは可憐な薄桃色。華美な装飾品など無くても、その表情豊かで大きな緑の瞳が彼女の武器だ。
人生で初めてのダンスパーティーに戸惑う姿は、ヒロインのライバル役の私が見ても庇護欲を掻き立てられる。
誰も。
今夜のためにこの王宮にいる誰も。
誰もが彼女の魅力には敵わない。
何故ならこのゲームはヒロインのための乙女ゲームで。
世界は彼女と彼女の恋を中心に回っているのだから。
そして彼は。
私の婚約者の彼は──
彼は、ヒロインの攻略対象だ。
*
公爵家の長女である私……ブリジット=エスターナは、産まれた瞬間から王家に嫁ぐことが決まっていた。
結婚相手はもちろん、王位継承権第一位のカイン王子。
私はこの国の王妃になるために生まれてきたのだ。
レディになるための厳しいレッスンも。眠たい王国史の勉強も。本当は弟と庭を駆け回る方が好きな私には向いていなかったけれど。
最初から結婚相手の決まっている人生を不満に思うことなんて一度も無かった。
だって。
だって私はカインが大好きだったから。
6歳年上の私の王子様。
物心ついた時には私の世界には彼がいて、私はずっと彼だけを見て生きてきた。
柔らかく艶やかな黒髪。太陽が沈む直前の空の色みたいな紫色の瞳。白い肌。幼いながらも既に纏った王族の気品。
どんな絵本を見ても。どんな肖像画を見ても。間違いなく彼が一番美しいのだと断言できる相手が、自分のワガママを聞いて優しく接してくれる。お姫様のように扱ってくれる。
夢中にならないわけがない。
今思えばそれは、王位を継ぐ第一王子ならば年の離れた幼い女の子への当然の模範的な態度だったけれど。
それでも彼と過ごした日々は私の心の宝物だった。
『リジィみたいなじゃじゃ馬、どうせそのうちカインに捨てられる』
そう兄にからかわれて泣いてしまった私の頬に、優しく口づけてくれた唇の感触を私はきっと一生忘れない。
『私、お兄様のことなんて大嫌いよ。カインがお兄様だったら良かったのに。そうしたら一緒のお家に住んで、一緒にご飯を食べて、一緒の時間に眠れるの』
『でもリジィ。俺が君の兄だったら俺達は結婚できなくなってしまうよ?』
『だって! 結婚は私が18歳になって王立学園の高等部を卒業した後でないとできないんでしょう? そんなのあと12年もあるわ!』
『学園で学ぶ知識もこの国を支える王妃には必要なものだからね』
『いや! 私は今すぐカインとずっと一緒にいたいの! お兄様になって!』
珍しく眉を下げたカインの表情に、小さな胸がチクンと痛む。
ずっと王妃になるために、カインと結婚するためにお勉強を続けてきたのにそんな風に彼を困らせるなんて。自分でも矛盾していると本当はわかっていたけれど、兄から受けた意地悪の八つ当たりを彼にしていたのだ。
『カインが兄だったら良かった』
12年後。そんな本心ではない言葉の報いを受けると。
呪いのように自分に跳ね返ってくると知っていたならあんなこと絶対に言わなかったのに。
フラッシュバックは突然だった。
10歳の誕生日前日。私とカイン、お母様にお兄様と弟のシモン。薔薇園にあるテーブルで五人でお茶を飲んでいる時だった。
出会ってしまった!!
遂に『彼』と『ヒロイン』が出会ってしまった!
彼のアメジストの瞳が、この国の第一王子との邂逅に緊張で震える彼女を映す。
肩までの焦茶の髪を可愛らしくアップにして。ほっそりとした肢体を包むドレスは可憐な薄桃色。華美な装飾品など無くても、その表情豊かで大きな緑の瞳が彼女の武器だ。
人生で初めてのダンスパーティーに戸惑う姿は、ヒロインのライバル役の私が見ても庇護欲を掻き立てられる。
誰も。
今夜のためにこの王宮にいる誰も。
誰もが彼女の魅力には敵わない。
何故ならこのゲームはヒロインのための乙女ゲームで。
世界は彼女と彼女の恋を中心に回っているのだから。
そして彼は。
私の婚約者の彼は──
彼は、ヒロインの攻略対象だ。
*
公爵家の長女である私……ブリジット=エスターナは、産まれた瞬間から王家に嫁ぐことが決まっていた。
結婚相手はもちろん、王位継承権第一位のカイン王子。
私はこの国の王妃になるために生まれてきたのだ。
レディになるための厳しいレッスンも。眠たい王国史の勉強も。本当は弟と庭を駆け回る方が好きな私には向いていなかったけれど。
最初から結婚相手の決まっている人生を不満に思うことなんて一度も無かった。
だって。
だって私はカインが大好きだったから。
6歳年上の私の王子様。
物心ついた時には私の世界には彼がいて、私はずっと彼だけを見て生きてきた。
柔らかく艶やかな黒髪。太陽が沈む直前の空の色みたいな紫色の瞳。白い肌。幼いながらも既に纏った王族の気品。
どんな絵本を見ても。どんな肖像画を見ても。間違いなく彼が一番美しいのだと断言できる相手が、自分のワガママを聞いて優しく接してくれる。お姫様のように扱ってくれる。
夢中にならないわけがない。
今思えばそれは、王位を継ぐ第一王子ならば年の離れた幼い女の子への当然の模範的な態度だったけれど。
それでも彼と過ごした日々は私の心の宝物だった。
『リジィみたいなじゃじゃ馬、どうせそのうちカインに捨てられる』
そう兄にからかわれて泣いてしまった私の頬に、優しく口づけてくれた唇の感触を私はきっと一生忘れない。
『私、お兄様のことなんて大嫌いよ。カインがお兄様だったら良かったのに。そうしたら一緒のお家に住んで、一緒にご飯を食べて、一緒の時間に眠れるの』
『でもリジィ。俺が君の兄だったら俺達は結婚できなくなってしまうよ?』
『だって! 結婚は私が18歳になって王立学園の高等部を卒業した後でないとできないんでしょう? そんなのあと12年もあるわ!』
『学園で学ぶ知識もこの国を支える王妃には必要なものだからね』
『いや! 私は今すぐカインとずっと一緒にいたいの! お兄様になって!』
珍しく眉を下げたカインの表情に、小さな胸がチクンと痛む。
ずっと王妃になるために、カインと結婚するためにお勉強を続けてきたのにそんな風に彼を困らせるなんて。自分でも矛盾していると本当はわかっていたけれど、兄から受けた意地悪の八つ当たりを彼にしていたのだ。
『カインが兄だったら良かった』
12年後。そんな本心ではない言葉の報いを受けると。
呪いのように自分に跳ね返ってくると知っていたならあんなこと絶対に言わなかったのに。
フラッシュバックは突然だった。
10歳の誕生日前日。私とカイン、お母様にお兄様と弟のシモン。薔薇園にあるテーブルで五人でお茶を飲んでいる時だった。
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