ここはきっと彼の手の内。
 僕はいつも通りの規則正しい朝を迎える。

 7時。僕はキッチンでトーストを焼いている。焼いていると言っても焼いてくれるのはトースターであって僕じゃない。

僕が食べる6枚切りのパンはトースターの中にいる。それとは別に8枚切りのパンは僕の持つフライパンの中で溶き卵に身を包み、焦げ目をつけている。"溶き卵に見を包む"ってなんかエロい。わかるだろ?すごくエロい。

トースターの"チーン"って音と同時にフライパンの火を止める。フレンチトーストをお皿に盛り、お決まりのイチゴジャムをのせる。トーストもおそろいのお皿にのせコチラはマーガリンをぬる。美味しそうだ。

今日もうまくできたと思う。まぁ、かれこれこの朝食を1年は作ってるわけだからそれなりに上達はする。最初はフレンチトーストを黒くしてよく不機嫌な顔をされたものだ。

僕はお皿をテーブルに並べ寝室に行く。ドアをノックすると中から「ん…。」という声が聞こえる。待って、最高に可愛い。こんな可愛い彼女のためなら早朝からフレンチトーストを作るのだって苦じゃない。

「ハナ、起きて。朝ご飯できたよ?」

僕が扉をあけて寝室を覗くように顔を出し声をかけたが案の定返事はない。僕は寝室に入りベッドに腰を掛ける。彼女の瞼は閉じていて開く気配はない。僕は彼女の柔らかい髪の毛を撫でる。サラサラで細くてフワフワしていて…。僕は彼女の髪にキスをする。愛おしい。彼女の頬に触れ彼女の体温に触れる。愛らしい。

「はーな。フレンチトースト冷めちゃうよ?」

ぼくが言うと彼女は僕の手首をつかんだ。細い指。白くて長い指。でも小さい手。親指に貼ってある絆創膏は昨日彼女がささくれをむしって血が出たのを記憶している。痛かっただろうに…。

「フレンチトースト…?」

やっと彼女は口を開いた。

「そうだよ。冷めちゃうの嫌でしょ?」
「…うん。嫌。」

枕に顔を埋めて彼女は答える。

「だから起きよう?いくら午後の講義だって言ったって、その前に僕とイチャイチャする時間必要だもん。もう起きて??」

僕が言うと彼女は僕に顔を向けた。眠そうな顔だ。でもそれがたまらなく愛おしい。

「いちゃいちゃするの…?」

もう片方の手で目をこする彼女。

「しないの?」

彼女は大きくて丸い目で僕を見る。少し考えている風だった。黒目がキョロキョロしていたからすぐに分かる。悩んでいるときの癖。

「いちゃいちゃって?どんないちゃいちゃ?」

彼女はどんな返答を求めているのだろう?デート?一緒に映画見るとか?それともそういうこと?

「どんないちゃいちゃしたいの?」

わからないから質問で返した。彼女が望むとおりに。彼女は眉毛をひそめた。そしていたずらっ子のような顔をして、

「質問を質問で返しちゃだめなんですよー、お兄さん。」

と言った。駄目だったかぁ。

「じゃぁ、食べながら考えるよ。だから、さぁホラ、起きて?」







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