ここはきっと彼の手の内。
大学の講義も同じのをとりたい気持ちはあるけど、学部が違うとやはりそれはちょっと厳しい。だから、僕はこの時間がすごく心配で憂鬱で仕方がない。僕以外の男が彼女に触れたら…、話しかけたら…、目を合わせたら…、彼女の名前を呼んだら…?そんなことばかり考えてしまう。だから、だから僕は彼女を鳥籠の中に閉じ込めておきたいんだ。永遠にそこから出る必要はない。だって僕がいるから、そうだろう?












私の彼氏はすごく心配症だと思う。私が男の子と喋っただけですごく心配そうな顔でとんでくる。それはやっぱり、私の元カレのせいだろうな。

「ハナちゃん!」

いつもの声がした。私は声が飛んできた方へと体を向ける。

「おはよー。いや、もう午後だからこんにちは?のほうがいいのかな?」

丸メガネがよく似合うふわふわした髪の毛の女の子。同じ学部で仲良しの夏海ちゃんだ。

「んー…。まぁどっちも挨拶だからね!」
「だよね!講義行く前に飲み物買いたいから食堂寄ってもいい?」
「うん。」

私達は大学内の食堂へ向かった。もう10月だというのに周りは半袖の人が多い。それくらい暑い。私も半袖を着たかったけど、伊織くんがそれを許さなかった。私は文学部だしそんなに男の人はいない。別に腕の露出くらい…て思うけど、伊織くんが心配な気持ちになるのは嫌。だから実はすごく暑い。

「ハナちゃんも何か買うの?」
「冷たい飲み物買おうかなぁ、と思って。」
「暑いもんねー。」

夏海ちゃんはいつものアイスコーヒーを選んでレジへ向かった。一方私はというと悩んでいる。レモンティーか、ストレートティーか。

「んーーーー…。」
「そこはミルクティーだろ?」


「っ…!!」


急に声が降ってきた。私の思考は停止した。

「ミルクティーうまいの知ってるだろ?」

ミルクティー…。私はかつてミルクティーしか選ばないほどミルクティーが好きだった。でも、それはもう前のことで…。いまは全くと言っていいほど飲まない。私は恐る恐る顔をあげ、声の主の顔を見る。

「お前、ミルクティー好き"だった"だろ?」


「……雅人くん…。」


私の口から出たのは、元カレの名前だった。雅人くんはニッコリと笑った。私は目をそらし、彼から3歩離れた。

「なんだよ、つれねぇーなぁ。」
「…ミルクティーは、もう、飲まない。」

ミルクティーを拒絶しているのは彼を拒絶しているも同然だった。なぜなら、彼は

「俺はミルクティー好きだよ。"今"も。"昔"も。」

私は何も言わずにストレートティーを選んでその場を逃げるかのように離れた。やめてほしい。私に話しかけないで。

「ちょ、おい。ハナ。」

私の手首に強い力がかかった。

「…っ!!」
「ちゃんと話してくれるまでこの手、はなさないからな。」
「お願いっ…!やめてっ…!!」

手首はびくともしない。

「何で?教えてくれよ。」
「なにが。やめてよっ!」



「…泣くなよ…。お願い、お願いだから。お前が泣いてる姿だけは…見たくないんだ。」

なんでそんなこと言えるの?

「雅人くんに、関係ない…の。」

「……ごめん。痛かったよな。」

そう言って雅人くんは手首をはなした。





震えが止まらない。雅人くんに話しかけられた。また何かされたらどうしよう…。そんな不安で頭がいっぱいだった。伊織くんは雅人くんのことをすごく嫌っている。伊織くんに会いたい。早く会って抱きしめてほしい。私の中から雅人くんの影を消してほしい…。

「ハナちゃん、大丈夫…?すごい汗だよ?」

隣に座る夏海ちゃんが顔を私の覗いて言った。

「はは。今日は暑いからね…。」
「いや、でもこの講堂、クーラーガンガンだよね?」
「うん、なんかすごく寒い。」

夏海ちゃんは眉をひそめた。

「ねぇ、大丈夫?」
「え?うん、へーきへーき。」
「暑いのに寒くてさっきからすごく震えてて汗が止まらないのはなんで?」

え…。頭の中身が真っ白になった。

「伊織くん呼んでくる?」
「……でも、」

夏海ちゃんはと迷っている私を見てスマホで誰かに電話をかけ始めた。

「あ、もしもし?伊織くん!」

その相手は伊織くんのようだ…。

「早く!お願い!」

夏海ちゃんは声を少々荒げて言った。

「夏海ちゃん…。」

「前にも一回あったでしょ?こんなようなこと。その時伊織くんが飛んできた。伊織くんに抱きしめられてハナちゃんホッとして腰抜けてたの思いだしたの。」



それからすぐに伊織くんが飛んできた。その後このとは全然覚えてない。

目を覚ましたときそこには心配そうな顔をした伊織くんがいた。
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