ここはきっと彼の手の内。
「ハナ。寝ないの?」
優しい声が寝室から聞こえた。
「うん。」
私はここ何日も大学に行っていない。伊織くんいわくあの雅人くんにあった日、伊織くんが来るとホッとした顔をしてその場に崩れこんだらしい。それから半日高熱にうなされてた、と言う。
「寝ないと大学いけないよ?」
「うん、わかってるよ。」
ずっと引っかかってることがある。あの日、雅人くんは「お前が泣いてる姿だけは…見たくないんだ。」確かにそう言った。
引っかかっている理由は特にない。ただなんとなく引っかかっている。
「ハナ。ちょっと来て。」
伊織くんがベッドから私のことを呼んだ。私は彼のもとへ行く。
「ここ。」
彼は私に彼の脚の間に座るようベットをポンポンとたたいた。
「どーしたの?さいきん。」
「え?」
「なんかずっと考え事してるみたい。」
「あのね、、、。」
雅人くんのことを言ってもいいのかな?伊織くんは雅人くんのことをすごく嫌いで、今までも雅人くんの名前が出るたびにすごく機嫌を悪くした。だからといってひどいことをされたわけでもないからいいのだけれど…。
「話して?お願い。」
伊織くんは優しく笑った。
「いや、でもいいや!大丈夫。」
これ以上伊織くんに心配かけるわけにはいかないもの。私が笑って返すと彼から優しい表情が消えた。
「…伊織、くん?」
「そうやって僕じゃない何かを考えるのやてめくれない?」
「…え?」
強い口調で放たれたその言葉に私は戸惑ってしまった…。
「最近のハナおかしいよ?何で僕に心の内を話してくれないの?なんで僕を見てくれないの?なんで他の誰かのことを考えてるの?ねぇ?」
いままでに伊織くんのこんな姿見たことない…。焦っている、とも違う。怒っている、とも違う。
「…伊織、くん…?」
「雅人のこと考えてるの?」
「え?」
なんで、わかったんだろう…。私は伊織くんの手を握った。
「…あの日、ハナが倒れた日、雅人と会ったよな?」
「……なんでしってるの?」
「何でもわかるさ、ハナのことならね。」
伊織くんも手を握り返してくれた。でも、すごく強い力で返ってきたので少し痛かった。
「雅人くん、痛いよ…。」
「ごめん、でも我慢できないんだ。イライラして仕方がない。」
伊織くんが、いつも優しい伊織くんが、怒った。この日、伊織くんは異常なまでに私を愛でた。離してくれなかった。自分の縄張りに手を出すな、とでもいうかのように。ここにはいない雅人くんを威嚇するかのように。
とっても愛してもらったのに、全然嬉しくなかった…。そんなのは初めてだった。