心理作戦といこうか。
長方形の少し古びた木目調の写真立てを手にする。

これは私が実家から持ってきた、いわゆる嫁入り道具の一つ。
中学生だった自分のお小遣いで買ったから安物だけどずっと大切にしている宝物。
ちょっと、恥ずかしいけどこの頃を忘れたくない気持ちを尊重する。

「すっごく格好よく撮れてるでしょ?
 玲君の成人式のスーツ姿。
 大学が忙しくて参加しないのかなって思ってたから会えて嬉しかったなあ」

「うわっ
 こんな写真まだあったのか。
 真琴の中学の時の制服姿なんてかなり貴重だな。」

「捨てずに取っておくに決まってるでしょ。
 私は制服で会いに行きたくなかったけど、ママが私服だと目立つからって…」

「むしろ目立ってたけどな。
 "公民館の前にいる可愛い女の子は誰かの妹か!?"って。」

「あはは!なにそれ!
 本当に男の子同士の会話って女子には理解出来ない時があるよね。」


紺色のスーツに紺色のネクタイに身を包む彼。
とてもシンプルなのに彼が着るとすごくお洒落に見え、着こなし方にドキッとする。
会えなくて寂しい時や悩みがある時はこの写真を眺めていたっけ。
そんな彼の隣には中学生の私が無邪気に笑っている。
若かれし頃の二人が写った一枚。


キャンプの時の写真立ての隣に置く。
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