ステレオタイプの恋じゃないけれど
泣いてなんかいねぇかンな
「明日、暇?」
なんやかんや、話は切り上げられて、住所のメモを渡されて、初日の夜は終わりを迎えた。
その翌日を二日目と数えて、七日目の夜に当たる今、風呂上がりのナギサちゃんの髪をドライヤーで乾かし終えたタイミングで、彼女は唐突にそんなことを聞いてきた。
「え、明日? 暇だけど、明日、定休日じゃねぇの?」
「出かける。暇ならついてきて」
「え」
なぜ俺がナギサちゃんの髪をドライヤーで乾かしているのか。
それは話せば長くなる。が、話そう。
遡ること今より三日ほど前、ここに住み始めて四日目の夜に、ふと俺は、気付いた。
あれ? ナギサちゃん側にある風呂を使用した形跡が全くねぇな、と。
初日はただ寝るだけで終わったけれど、給金が発生するのならばと炊事洗濯掃除を一切手を抜かず、俺は毎日している。食事を共に取ることはなかったけれど、リビングに置いていたらいつの間にかなくなっていて、お皿やグラスもきちんと水につけられていたので、食べてくれていることは確かだ。が、しかし。彼女の仕事部屋以外は全てくまなく掃除しているのだけれど、使用していない部屋同様に、彼女が「使っている」と言っていたはずの風呂も使用された形跡がなかった。
一度でもそれに気付いてしまえばもうダメで、彼女がトイレに入ったところを見計らい、出てきたところを捕まえて、風呂へと連行したのが、このドライヤータイムの始まりだ。
「えっ、と、時間外労働……?」
服を着たままシャワーを頭から浴びせ、「何なの!?」「やめて!」「服! 濡れてる!」などと吐き捨てられる文句は全て受け流して、わしゃわしゃとシャンプーをした。しかしかなしかな。全く泡立たず、三度目のシャンプーにしてようやく滑らかになった指通り。
それでも「髪乾かすのめんどい」だの何だのとぶーぶー文句を垂れる彼女に「汚物と暮らす気はねぇんだよ! 髪ぐれぇ俺が乾かしてやるわ!」とキレたのはまだ記憶に新しい。「一日に一回絶対風呂に入れ頭と身体を洗え匂い嗅ぐからな入ってなかったら俺が直々に洗ってやンよこの手でなァ!」と息継ぎなしで怒鳴ったことを今では後悔している。
「特別手当が欲しいなら出すよ。携帯とか」
「どこにでもお供します!」
いくら中身が相容れなくとも、外見はドストライク。そんな彼女の風呂上がり姿は腰にクる。