ステレオタイプの恋じゃないけれど

　人間、驚きの限界を突破すると、声が出なくなるらしい。

「そりゃフラれたのは結構堪えたけど、まぁ、何だ……フラれんのは分かってたっつうか、俺自身ダメ元だったから別にお前が気ぃ遣って辞める必要なんてなかったんだぞ」

　すいっ、すいっ、と。未だに視線は携帯に向けたまま、まるで、そう、過去を語るかのように話す悠真に対する言葉が、全く持って思い浮かばない。
　いや、待て、え？
　ふら……ふられ……え？

「まぁ、お前、言い寄られてばっかで自分からアプローチとかしたことなさそうだもんな……逃げたのか何なのかは知らねぇけどよ、」
「ちょい待て悠真」
「あ？」

　ここでようやく、悠真の視線が、俺へと向いた。

「フラれた……って、言ったか、今」
「言った」
「嘘言うなよお前……ンなわけ、ねぇだろ、」
「は？　嘘じゃねぇわ」
「だっ、」
「んだよ」
「だって、ナギサちゃん、お前のこと、好きだろ」
「は？」
「嘘じゃねぇぞ？　本人から聞いたんだからな！」
「……」
「初日……初日に！　気になって聞いたら、キミの言う通りだけどそれが何？　って言われたンだよ」

　マジだかンな！
　念押しとばかりにそう言えば、悠真の視線が訝(いぶか)しげなものに変わる。

「へぇ」
「いや、確かにさ、お前とどうこうなるつもりはねぇって言ってた。好きだったけどそんな気はない、って……でも、」
「でも、何だよ。ちゃんと、言ってんじゃねぇか。好きだった(・・・)、って」
「え」
「だった(・・・)。過去形」

　しかしすぐにまた、憂いを帯びたものへと変わった。