ステレオタイプの恋じゃないけれど
恥ッ。
赤くなっているであろう顔をそろそろと手で覆って一人悶えていれば、くすりと小さく笑う声が聞こえた。
『久しぶりだね。ゲンくん。良かった、ユウにぃ連絡ついたんだね』
「え?」
『え。ユウにぃに言われたから来たんじゃないの?』
「え、や、確かに悠真に会ったから来たんだけど、」
『だよね。お給料、渡そうと思ってたのに黙って出て行くし、携帯も置いていくから連絡とれなかったからさ、ダメ元でユウにぃに伝言頼んでたんだ』
「そ、そう、なんだ」
『うん。あれ? 伝言聞いたんだよね?』
「え、あ、や、」
『まぁいいや。ちょっと待ってて。下までい』
「ちょ、待って、ナギサちゃん」
下まで。
その言葉で、ナギサちゃんが降りて来ようとしているのが分かった。
給料云々のくだりは初耳だ。悠真は何も言ってなかったし、言われた今でさえ、「いやそんなことより!」って思ってしまっている。そもそも、ナギサちゃんとの同居生活が快適過ぎて、給料だとか考えたことなかった。
だからもう、そこじゃない。彼女の声を聞くのは、五ヶ月ぶりだ。会うのだって、五ヶ月ぶり。会いたくて、馬鹿みてぇに会いたくて、一心不乱に走ってきたはいいけれど、いざ会うとなると、会いたい気持ち以上に会うのが怖かった。
『……うん?』
情けねぇなと自分でも思う。
悠真が言ったように、言い寄られたことは多々あれど、己から言い寄るのは初めてで、唇が震えた。