ステレオタイプの恋じゃないけれど
だからって、ここまで来て逃げるほど廃れてはいない。と、思いたい。
息を吸って、吐いて、一人小さく頷く。それを合図に、俺は口を開いた。
「……俺、ナギサちゃんが好きだ」
『え』
「っ、結構、前から自覚してたけど、ナギサちゃんは悠真が好きだって知ってたから……最初から終わってンなって思ってて、っでも! 俺! 嫌なんだよ……ナギサちゃんが俺以外のヤツと……って考えたら、もう、無理で……山登りとか、一日中ゲームすンのとか、お、俺と、して! 欲しい! あと! あ、あーる、し、ていされる、ようなこと、も、したい……から! 俺と、だけ! して! 欲しい!」
ええいままよ。
好きだという言葉を皮切りに、勢いに任せて己の中に渦巻いていた感情を吐き出す。途中から、「あ。これ絶対ひかれてる」だとか「いやだっせぇな!」だとか「スマートに、好きだ! 付き合ってください! で良かっただろ」だとか、ネガティブな思考が生まれたけれど、知るもンか。
思ってたより長くなったし、声も大きくなってしまったけれど、言えた、という謎の達成感を荒くなった息と共に味わっていれば、ふと、隣の何かの気配を感じた。
「あの、申し訳ありませんが、」
「っうお!」
「フロントまで声が響いております。少しだけ声量を落としていただけますでしょうか」
と、同時に、かけられた声。
驚きつつ視線を向ければ、そこには五人いると噂のコンシェルジュの内のひとりが冷ややかな視線を隠すことなく俺へと向けていた。
「っす、すみま」
『っはは!』
やっべぇ。怒られた。
慌てて謝ろうとすれば、スピーカーの向こう側で、堪らず吹き出したような声が聞こえた。