ステレオタイプの恋じゃないけれど

 疑問符を頭上に浮かべたのは、俺だけではなかった。
 俺も、もちろん浮かべたが、隣で立っているコンシェルジュさんもまた、浮かべていた。

『あー……おっかし……笑った笑った』

 ふふ、ふふふ。
 吐き出される言葉に混ざる、笑い声。羞恥心が前面に出てきたけれど、別にいい。

『騒いでしまってすみません、(みなもと)さん』
「いえ」
『すみませんついでに、彼にゲストキーをお願いできますか?』
「かしこまりました」

 返答を期待して待っていれば、話しかけられたのはまさかの【ミナモトさん】。どうやら、隣のコンシェルジュさんが【ミナモトさん】らしい。
 モニター越しで見られているからだろうか、キレイなお辞儀をして、彼は「少々お待ちください」と俺の視界から消えた。

『ゲンくん』

 と、同時に、スピーカーから聞こえた、静かに俺を呼ぶ声。

「っえ、あ、はい」
『私さ、束縛魔なんだよね』
「え」
『軟禁する自信しかないよ、キミのこと』
「え」
『そうされる覚悟がないなら、給料持ってさっさと帰って。そこに持っていくから』
「……」
『でも、そうされてもいい覚悟があるなら、源さんからゲストキーをもらってここまでおいで』

 ふふっ、と。
 さっきとは少しだけ毛色の違う笑い方をされ、ごきゅりと喉が鳴った。

『話しはそれからよ』

 いやそんなの、一択でしょ。


 ー終ー
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