推しを愛でるモブに徹しようと思ったのに、M属性の推し課長が私に迫ってくるんです!
  
 笑顔の浮田課長は会議室を出て課のある方に歩いて行った。私は急いでトイレに行きその後に給湯室に向かう。早く戻ってあの可愛い浮田課長を堪能したいし、浮田課長の手料理食べたいじゃないか! 踊る気持ちを抑えてお茶を持って会議室に戻ると、招かざる客が浮田課長の前に陣取って居たのだった。
 
 
「課長ぅ、お昼はどうされるんですか? 良かったら一緒に食べません?」
 
 
 総務課の新藤さんだった。新藤さんは寿退社を狙っている女性で、この社に入社したのも高収入高学歴の自慢できる結婚相手を見つける為らしい。きっと独身で男前な浮田課長はターゲットなのだろう。すっかりとハンターの目になっている新藤さんは、舌舐めずりするように浮田課長に迫っていっていた。
 
「新藤さん! 第一会議室で午後からの会議があるでしょう? あの部屋のプロジェクターの調子が悪いから、会議の前に直して欲しいって部長が言ってたわよ。聞いていたでしょ?」
  
 
 私の声を聞いた新藤さんは、「チッ」と舌打ちしながら会議室から出て行った。すっかりと怯えた顔の浮田課長は「助かったよ」と私を見ながら言うのだ。私は後ろ手でカチャリと会議室の鍵を掛ける。そのままズンズンと浮田課長の前に進んでいき、机の上に持っていたお茶を置いた。
 
 
 浮田課長は持って来た大き目な紙袋からお弁当を取り出す。ん? え? それって重箱ですか?
 
 
「運動会? いや、行楽に来たみたいですね」
 
 
 浮田課長は重箱を平置きにし、用意していた紙皿と割り箸を私の前と自分の前に置いた。予想外の大きなお弁当に若干驚いた私は、中身を見て更に驚く。私の目の前に置かれた重箱の中身は、デパ地下で買ったのかと思うような完璧な料理の数々だったのだ。しかも可愛いキャラクターのピックが唐揚げに刺されていた。それはウサギと狼。ウサギは浮田課長で狼は……誰?
 
 
「君の口に合うか分からないが、結構料理は好きな方なんだ」
 
 
 浮田課長の女子力が自分より上で泣きそうです。私はご飯を炊くことしか出来ないのだから。男性でここまで作れるって……。驚きました」
 
 
 すると鍵を閉めたドアからガチャガチャと音がする。
 
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