推しを愛でるモブに徹しようと思ったのに、M属性の推し課長が私に迫ってくるんです!
 疑いの顔で笑う田中を睨み付けてやろうと思ったが、西浦さんが「いや、ないから!」言い、俺は少しだけ胸がギュッとした。すると田中は俺が西浦さんの為に作った重箱のお弁当を指さすのだ。
 
 
「うわー! ずるい! 西浦さんだけ浮田課長の手料理食べてる! あ、そうか! 独り占めしたいからドアに鍵を掛けたな!」

「んなわけない!」

 
 田中と西浦さんのやり取りは、とても仲が良いというのが嫌というほど伝わってきた。俺は思わず「田中はどうしてこの弁当を俺が作ったって思ったんだ?」と聞いてしまう。俺の問いかけに噴き出すように笑う田中君が、西浦さんをチラチラ見ながら「いや~、聞いて下さいよ」と声を出した。
 
 
「西浦さんの家って汚部屋なんですよ……」
 
「た、田中は西浦さんの家に行った事があるのか……?」
 
「へ? はい、まあ同期ですので。コイツってば酔うと前後見境なくなるんで、俺が家まで送った事が何回かあって。なあ?」
 
 
田中の問いかけに西浦さんも賛同していた。どう言うことだ? 最後の方はハッキリと聞こえなかった。家に行った? コイツって言ったのか?
 
 
「送ってもらっただけで、何もないんですよ! コレには彼女も居まして、ほら、秘書課の!」
 
 
西浦さんが何だかいつもと違って軽快に話している。何かを隠そうとしているのか? 怪しい……。田中がギョッとして目を見開いて見ているじゃないか。
 
 
「ほら、折角の課長が作ったお弁当なんで、三人で食べましょうか!」
 
「そ、そうだよな……。折角だから田中も食べてくれないか。ちょっと作りすぎて……」
 
 
 何とも言えない空気の会議室だったが、タダ飯が食べられると大喜びする田中の現金さに少し救われたようだった。
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