推しを愛でるモブに徹しようと思ったのに、M属性の推し課長が私に迫ってくるんです!
 その時、私は何かの視線を感じる。その視線の先をソッと目の端で見てみることにした。するとコピー機が置いてあるエリアから浮田課長がこちらを見ているのだ。その視線は険しく、コピーを取るフリをしながら私と田中君を交互に監視しているようだった。本人はカモフラージュをしているつもりかも知れないが、明らかにこちらを凝視している。
 
 
「課長……、いわゆる頭隠して尻隠さずです……!」
 
 
 私の呟きに「え? 何か言った?」と田中君が私に耳を近づける。それはかなり接近した状態で、私も驚いてしまったが、気がない相手なので特に動揺は見せなかった。
 
「田中君の事じゃないから……。情報提供ありがとうね!」
 
 
 私は田中君の席から離れてコピー機の辺りを見ると、浮田課長が固まって唖然として立っていた。手に持っていた紙が床に散らばっており、私は慌てて駆け寄る。
 
 
「浮田課長! どうしましたか?」
 
「え……、今……き、キ!」
 
「キ? え? 何ですか?」
 
 
 私の問いかけに「何でも無い」と答えた浮田課長は、無言で周囲に散らばった紙を拾い上げていた。私も一緒になって紙を拾うのを手伝っていたら、同時に一枚の紙を拾い上げて偶然にも手が触れてしまう。驚いた私は「す、すみません!」と手を引こうと思ったが、浮田課長がグッと私の手を掴むのだ。
 
 
「……きょ、今日の終業後の予定は?」
 
「え……? きょ、今日ですか? 今日は……残業の予定ですが」
 
 
 浮田課長は「チッ」と舌打ちしていた。ここでもまた「悪課長」が出た! 何だか可愛い。
 
 
「分かった……。待つから」
 
 
 浮田課長はそう言って、拾った紙と共に立ち上がりその場を離れて行く。残された私は唖然として座ったまま立ち上がれない。あれってどう言う意味? 田中君の件の恋愛相談かしら?
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