推しを愛でるモブに徹しようと思ったのに、M属性の推し課長が私に迫ってくるんです!

 浮田課長が散らばった本を拾おうと、数冊手に取って表紙を確認する。直ぐに浮田課長も顔が紅潮していき、プルプルと手が震え出す。そう、偶然にも浮田課長が手に持ったのはBLのSM責めコレクション、私の一押しだった。


「か、課長~! 本当に、駄目ーーーー!」


 浮田課長の手から奪い取ったBL漫画を後ろ手に隠そうとしたが、浮田課長の手が伸びてきて、あっという間に壁ドン、いや襖ドン体勢になった。


「……西浦さんはSMに興味があるのかな?」

「え? まあ、興味というか(BL)界隈ではよくある責めでして。受けを攻めが――」

「うん、やっぱり運命なんだよ。西浦さんは僕の理想だ……!」

「はい?」


 スッと床にしゃがみ込む浮田課長は、よくある立て膝ポーズをしていた。それは洋画で男性が「結婚して」と告白するあれだ。私は混乱したまま、その様子をジッと見ていた。何がこれから起こるのか全く想像が出来ないのだから。


「西浦さん、お願いだ。僕の女王様になって欲しい。ずっと探していたんだ、理想の女王様を。正しく君はその理想像なんだよ」

「え、えーー! いや、女王様って。私はモブなので……」

「モブ? よく分からないけど、君は常に僕を監視するように見てたよね? あの冷たい目……。たまらないんだ!」


 おかしい、何かがおかしい。私は推しを影から愛でるモブのはず。しかも浮田課長の狙いは田中君ではないの?
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