推しを愛でるモブに徹しようと思ったのに、M属性の推し課長が私に迫ってくるんです!

「あ、駄目です! 開けないで――」


 ドアの鍵を開けて中に一歩脚を踏み入れた時に、腕を引っ張って西浦さんが俺を止めたが、時既に遅しだった。


「こ、これは……。まあ、あれだよ。仕事が忙しいって事だろう?」


 西浦さんの部屋はかなり散らかっていた。玄関には沢山の七センチヒールの靴が脱ぎ捨てられており、丸まったストッキングや上着が床に散らばる有様を、俺は少し唖然として見ていた。会社ではあんなにしっかりしている西浦さんが、家では駄目っ子属性だなんて。良いぞ! それはそれでイイ! 俺が手取り足取りお世話致します、女王様!


 西浦さんが慌てて片付け出すが、俺は「いいから、君は横になりなさい」と彼女の手をそっと握る。少し顔の赤い西浦さんを、床に散らばっている物を踏まないようにベッドまで案内し、ソッと上着を脱がしていく。


「皺にならないようにジャケットは掛けておくから……。す、スカートはまあ、後で。僕が部屋を片付けておくから、西浦さんは休んでね」

「浮田課長、本当に私は大丈夫なんです。顔が赤いのは推しが――」

「え? 押し入れ?」


 俺は西浦さんが押し入れに入っている物が欲しいのかと思い、彼女が見つめる押し入れを開けた。


「だめ~! 開けないで!」


 ドサドサ バサー


 俺が開けた押し入れから大量の本が雪崩のように落ちてきたのだ。それらは少女漫画よりはリアリスティックな絵が描かれている。俺も昔は漫画を読んでいたのだ。西浦さんとの話題のためにと、少し興味を持って一冊を手に持ってみた。

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