婚約破棄されたので、森の奥で占いお宿をはじめます。
「ライラね。じゃあ、とっておきの宿を紹介してやる。心配するな。ちゃんとしたとこだ。
ちょっとばかり奥の方の……ああ、向こうに広がる森があるだろ?あの奥の方だ」


奥の方って……
ハロルドの指差す方は目を向けた。

まだ陽は沈みはじめる前だから、辺りは明るいけれど。あの森、入り口付近しか明るくない。近付いても、先が見通せるかどうかも怪しい。


「ず、ずいぶん……生い茂ってるのね」

「人の目にはな。獣人なら、そんなの関係ねぇな」


人間より体力も身体能力も五感も優れている獣人。
人間の形をとっていても、暗がりで目が効くし、耳も鼻も感覚が鋭いのだという獣人達には、確かに仄暗い森でも平気そうだ。


「わ、私にはちょっと……」

「でも、困ってるんだろ?」

「え、ええ。まあ……」

「それに、俺の奥さんが勤める宿だ。安全は保障する」


ウサギっ子が!?
とたんに、真っ白や柔らかいブラウンのウサギが思い浮かぶ。目は黒かしら?赤かしら?
忙しそうに、鼻をヒクヒクさせて……

その想像だけで、ずいぶん警戒心は緩んだ。

むしろ、ウサギっ子に会ってみたい。


「行ってみるわ!!」

「おう。まっすぐ行くだけだ。道もあるし、わかるはず。
あっ、俺の名前を出すといい。少しは融通が効くだろう」

「ありがとう」


そうと決まれば、陽のあるうちに行こうと、急いでハロルドの店を後にした。









< 41 / 260 >

この作品をシェア

pagetop