綺麗になんてなれない

 ぺちぺちと頬を叩かれる感触に、はっと意識を取り戻した。

「あ、ごめ、ぼーっとしてた……」
「いいけど。いつものことだし」

 行為のあとの、そっけない義之に戻っていて、私は少しがっかりした。

「シャワー浴びる?」

 義之は、脱ぎ捨ててあったTシャツで汗を拭きながら振り返る。私は枕元の時計に目をやってから、首を横に振った。実家暮らしの女子大生には門限があるのだ。

「時間ないから。メイクだけ直す。洗面台借りていい?」
「ん。俺シャワー浴びてるから、準備できたら勝手に出てって。鍵そのままでいいから」
「分かった」

 シャワーの水音が聞こえてきて、義之が浴室に入ったことを確認してから私は洗面所に入った。お互いの裸なんてもう何度も見ているから今さらだけど、やっぱり日常の中で見るのは恥ずかしさが違う。
 私はメイク道具を置かせてもらっている洗面台の下の戸棚を開けた。
 家主のものがほとんどないその薄暗い空間は、彼以外の人が使うことのほうがずっと多いのだろう。
 そこには、小花柄の可愛いポーチがちょこんと鎮座していた。私のものではない。もちろん、義之のものでも。

 また分かりやすくマーキングなんてされちゃって。

 私は溜息をついた。
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