綺麗になんてなれない

「匂いが完全にそうだろ。お前の味覚崩壊してんのな」
「正常だし。ちょっとストライクゾーンが広いだけ」

 その分、なんでも美味しく食べられるのだから得だと思っている。

「ちょっとか? お前の旦那になる男は大変だな」
「むーっ。料理は旦那様の好みにちゃんと合わせるもん!」

 私は、ぷい、とそっぽを向くと、おにぎりのビニールをぴりぴりと剥がし始めた。

 昼食を食べ終わると、サークル仲間との楽しいおしゃべりに花が咲く。時間を忘れて取り留めもなく会話を続けていると、義之が突然立ち上がった。

「俺、次も講義あるから行くわ」

 いつの間にか午後の講義の始まりが迫っていたようだ。

「そっか。私は空きコマだからもすこしのんびりしてくー」
「んじゃ」
「ばいばーい」

 義之のほかにも午後一番に講義を入れている人は多くて、賑やかだった部室はあっという間に二人きりになってしまった。

「みきちゃんは次、講義じゃないの? 義之と同じクラスだよね?」

 同期でも仲の良いみきちゃんが座ったまま動く気配がないのに私は首を傾げた。
 大学でほかの人のクラスをいちいち気にしてはいないけれど、入部当初に聞いた義之とクラスもサークルも一緒という話はなんとなく印象に残っている。
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