教えて、春日井くん
「頼むなら俺にだけにして」
夕暮れの公園のブランコで、私は一つ年下のまほこちゃんとよくお喋りをしている。
彼女とは年齢は違っていても気の合う友達で、こうしてよく学校の後に会っている。
まほこちゃんは学校が違っていて、ここの公園で一年前に出会った。
そして私に大事なことを教えてくれた友達。
夕焼けに照らされて淡く光る金髪をクリップで一つに束ねると、まほこちゃんが勢いよくブランコを漕ぎ出した。見ているだけで目が回りそう。
「てかさー、好きだねーそのシリーズ」
私が先ほど購入した新刊のことだろう。初々シリーズで、作中には女の子と初めて付き合う男の子たちが登場する。
この本は、元々まほこちゃんが一巻を持っていて面白いから読む?とすすめてくれた。それから私の方がどっぷりとハマって今に至る。
「ウブ男子という扉をノックしてくれたまほこちゃんには感謝してる」
「やめて、そんな変態の扉誰もノックしてないから」
まほこちゃんがこの本を教えてくれなかったら私は男の子に関心を持たずに人生を終えていた。
だからこそ、この本と出会わせてくれて世界を広げてくれた彼女に感謝しているのだ。
新刊の裏表紙に書いてあるあらすじを読んでみると、『いよいよ、ふたりは初めてのキス!?』という言葉が目にとまった。
初めての……キス。
つい先日経験したことを思い出して、心臓が騒がしくなる。これがキスの力。
「ねえ、まほこちゃん」
「んー?」
「キスってしたことある?」
「は、はあ?」
私の質問にまほこちゃんがブランコを漕ぐのをとめて、怪訝そうに見つめてくる。