教えて、春日井くん
「お願い、春日井くん」
期末テストも無事に終わった七月。
夏休みが近づいてきた。
夏といえば春日井くんとしたいことは、プールや花火や夏祭りなどしたいことは山ほどある。
己の湧いて出てくる欲望を必死に抑えつつ、なにから提案しようかと吟味する。
帰り道、ます私はずっと温めていた放課後デート計画を実行することにした。
「ねえねえ、春日井くん」
「ん?」
うきうきする気持ちを隠しながら、平然を装って笑みを浮かべる。
「春日井くん、明日デートをしましょう!」
私の提案に春日井くんが嬉しそうに頷いて、どこに行きたいかと聞いてきた。
待ってました!と言わんばかりに事前に下調べをしていたスポットを私は候補に上げる。
「映画館かプラネタリウムか、お化け屋敷!」
「……あのさ、綺梨ちゃん」
「なーに?」
「暗がりばかりだよ」
春日井くんが残念なものでも見るかような表情になってしまう。
早い。もう私の魂胆を見抜いたらしい。さすがです。
「映画館もプラネタリウムも春日井くんと自然と距離が近いし、お化け屋敷なら春日井くんは怖がって抱きついてきてほしい!」
「どれ選んでも、綺梨ちゃんに俺いじられるじゃん」
もっと健全で明るい場所で楽しいことをしようと言われて、いくら頭を捻ってもあとは甘いものを頬張る春日井くんが見たいとしか思い浮かばない。
「綺梨ちゃん、なにか食べたいものとかないの?」
「食べたいもの?」
「あんまり寄り道普段しないでしょ。だから普段なかなか食べられないものとか食べるのはどうかな」
中学の頃は親に決められた習い事をしていたため、一度も寄り道をしたことがない。
高校では習い事はなくなったけれど、亜未ちゃんもひーちゃんもバイトで忙しいため、あまり寄り道はしない。そのため経験も知識のない私の発想は乏しくなってしまう。
「う……うーん……ソフトクリームを食べてる春日井くん……?」
「俺は食べないでいいから」
「春日井くんが隣にいてくれれば、私どこでも楽しいと思う」
「っ、そ、そっか……そうなんだ。へー」
正直に言ってみると、春日井くんの手がぎこちなく上がったり下がったりし始める。
そしてその手が、春日井くんの顔を覆ってしまう。
……多分照れた。顔が見たいけど、頑なに見せてくれない。
「……とりあえず、街でもふらふらしてみる?」
「うん! あの、顔」
「見ないでいいよ!」
……うん、ちょっと赤い。心のウブが顔を出したのかな。かわいい。
そうして結局いい案が思い浮かばなかったので、私たちは目的地を決めずに明日放課後デートすることになった。