教えて、春日井くん
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授業が終わると、後ろの席の村井さんに「ねえねえ」と声をかけられた。
ちょっとだけ興奮したように頬を染めながら、小声で言葉を続けてくる。
「御上さんって、春日井くんと付き合ってるの?」
「え?」
「さっき、手振り合ってたでしょ?」
後ろの席の村井さんには見えてしまっていたらしい。
「付き合ってないよ」
……キスはしたけど。
またキスのことを思い出してしまい、キスという言葉が頭の中で積み上がっていく。まずい。煩悩滅却しないと。
「そっかぁ……まあでも御上さんと春日井くんだとなんか違うもんね」
「違う……?」
「春日井くんって派手目な女の子たちと一緒にいるし、御上さんは爽やかな男の子と似合いそう」
私と春日井くんは系統が異なるらしい。
あまりそういうことへの意識をしたことがなかったけれど、周囲からはそう見えるんだ。
「あ……ごめん、もしかして御上さん春日井くんのこと好きだったりするの?」
控えめに申し訳なさそうな表情で聞かれて、首を横に振る。
不純な気持ちで気になってしまっているだけだ。春日井くんのことは意識なんてしていない。
「ただ目が合ったから手を振っただけだよ」
たったそれだけ。私たちの関係なんて、大したことじゃない。
きっと経験豊富な春日井くんは私のことなんてすぐに忘れて、別の子と付き合うはずだ。