教えて、春日井くん
「綺梨ちゃん、目が潤んでる」
映画のせいだけじゃない。たぶん、もどかしいキスをされているからだ。
けれどすぐにテレビから、再び叫び声が聞こえてきて勢いよく春日井くんに抱きつく。
「わ、大丈夫?」
「……へい、き……平気です」
言い聞かせるように口にしながら、ぎゅうっと春日井くんにしがみついて胸元に顔を寄せる。
春日井くんのオレンジのような匂いがして、安心してくる。この匂い、好き。
そんな風に安心しても、すぐにテレビの音に私の心が縮み上がってしまう。
「綺梨ちゃん、映画消そうか」
「っ、でも」
「あーけど、そうだな……上手におねだりできたら消してあげる」
映画にお化けが出てこないから余裕そうな春日井くんは、普段の仕返しのように楽しげに提案してくる。
おねだりってなに、おねだりってどうしたらいい? 頭の中でぐるぐると考えながら、額をぐりぐりと春日井くんに押し付ける。
「消して消して」
「んー、それじゃ足りないかなー」
「春日井くん意地悪だ」
「うん、こんな綺梨ちゃん貴重だからね」
春日井くんは私をあやすように背中をぽんぽんとしながら、耳元で「上手におねだりしてみて?」と促してくる。
テレビから聞こえる音と、春日井くんの囁きに思考がぐちゃぐちゃになりそうだ。
リモコンで消してしまうのが早いかと思ったけれど、残念ながらリモコンは春日井くんの近くにあるので、とろうとしたらバレてしまう。