教えて、春日井くん


廊下に出てお手洗いへ向かおうと歩いていると、床を踏みつけるような足音が聞こえてくる。

誰かが急いでいるんだな。そんなことを考えて振り返る。



「御上さん……っ!」

すると春日井くんが息を切らしながら私の目の前で足を止めた。

体育が終わったあとでまだ着替えていないのか、ジャージ姿のままだ。



「どうしたの?」

「さっき、その……手振ってくれたよね?」

「え、うん」

頷くと春日井くんが顔をくしゃりとさせて笑う。


「よかったー。勘違いだったらどうしようかと思った」

「……なんで?」

「だって、嬉しかったから。勘違いじゃ悲しいじゃん」


手を振った。それだけなのにすごく喜んでくれている春日井くんを見ていると、胸が締めつけられる感覚になる。


たぶん、春日井くんのことがちょっと可愛いとか思えてしまうからだ。




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