教えて、春日井くん
「口説かれてる?」
翌日もこのことで頭がいっぱいになりながら、クラスの友人たちと教室で昼食をとる。
頭の中は<初々シリーズとキスと春日井くん>が占めていていて、今の私の思考回路は少し危うい。妙なことを口走らないように気をつけよう。
「彼氏が人前でキスしようとしてきて」
「ふぐっ!」
目の前に座っている亜未ちゃんの口からキスという単語が出ていて、ミートボールが喉に詰まりかける。
「え、綺梨大丈夫?」
「だ、だ……大丈夫……っ、手違いで、呼吸が……しにくくなってるだけ……だから、つづ、けて……」
「それ詰まってるでしょ! 飲み込むか、出して!」
「ぅ、ぐ……ミートボールは、私の……っ」
隣に座っているひーちゃんが私の背中をさすりながら、お茶を手渡してくれた。
大好きなミートボールを、しっかりと味を堪能せずに飲み込むのは悲しいけれど仕方ない。
「綺梨って、時々よくわかんないよね」
「まあ、綺梨はミステリアスなのも魅力だからねぇ」
ふたりの中でも私はミステリアスらしい。何故みんな私のことをそんなふうに感じるのだろう。
私の本音なんて、大したことないのに。初々シリーズの本は、いくら読んでも萌えるからみんなに布教したい。
お茶を飲んでミートボールを胃に流すと、会話が再開される。
「それでね、彼が人前でキスしようとしてくるからやめてって言って、ちょっと喧嘩しちゃったんだよねぇ」
「うわ、それは普通に嫌だよね」
亜未ちゃんの彼氏との愚痴を聞きながら、ひーちゃんが頷く。
よかった。私もその認識だ。人とずれているのかと思ったけれど、大丈夫なようだ。
だって人前でキスしたら、秘密感が薄れるものね。こっそりとするのがいいのよね。
うんうん。それに大胆なキスよりも、ぎこちないキスの方が萌えるよね。
あれでも……まあ、春日井くんとのキスはぎこちなくはなかったけど……うん。