教えて、春日井くん
「今日はなにをしてほしい?」
春日井くんに問われて、少し考えたあと右手を見せる。
「歩きながら指を絡めて、手を繋いでみてほしいの」
「え、」
「これも小説の再現なんだけど、憧れていたんだ!」
ウブ男子が緊張しながら、彼女の手を握るシーン。
これを読んだとき、付き合ったら絶対このシチュエーションをしてもらおうと思っていた。
春日井くんにはすでに手を握られたことはあるけれど、そのときは別のことに気を取られてしまったので今日は手に集中したい。
「どうかした?」
固まっている春日井くんを見上げて、首を傾げる。
「いや……予想外でちょっと驚いただけ。過激なこと言われるかと思ってた」
「私をふしだらな女だと思ってるの?」
「……変態だとは思ってる」
正直すぎる発言になにも言い返せなかった。確かにそう思われても仕方ない発言を彼の前では多々している。
少しして、私たちは再現をするために教室を出て廊下を歩くことになった。
生徒たちは既に帰宅しているため人の気配がない。
「春日井くんは今まで女の子たちと手を繋いだりしたでしょ?」
「うーん……どっちかというと向こうから握ってきたかな」
「今の時代は女の子も積極性があるんだね」
「……御上さんもね」
結構いい雰囲気だ。談笑しながら歩いていると、春日井くんの指先が私の人差し指に触れる。
きた!と持った瞬間、すぐに手が離れてしまう。
……あれ? 今って手を繋ぐタイミングじゃなかった?