伯爵令嬢のつもりが悪役令嬢ザマァ婚約破棄&追放コンボで冥界の聖母になりました
「大丈夫ですか!」

「お、お嬢様!」

 間違いない。

 そこにいるのはミリアだった。

 王宮で自分を絶望の淵に追い込んで冥界へと突き落としたあの侍女だった。

 だが、そんな恨みなど、どうでもいいことだった。

「ミリア、いったいどうしたというのですか」

「あ、あれ……」

 震える手で指をさす方に、二人の男たちの姿があった。

 その二人にも見覚えがあった。

「おまえたちは、あのときの!」

 それは城の地下牢でエレナから指輪をだまし取った二人組だった。

「お、こりゃ、あんときのお嬢様じゃねえかよ」

「へへへ、ちょうどいいじゃねえか」

 ズボンを下ろした男たち二人がそれぞれ彼女たちに襲いかかる。

「ああ、お嬢様!」

「おまえたち、何をするのです。おやめなさい」

 二人にのしかかった男たちが顔を見合わせて下品な笑みを浮かべる。

「ずいぶんお上品だねえ。そそるじゃねえかよ」

「『何をするのです』だとよ。お望み通り、たっぷりと教えてやろうじゃねえか」

「たっぷりってよお、ケケケ、おめえ、いつも早く終わっちまうじゃねえかよ」

「うっせえ、ほっとけ馬鹿野郎」

 怒鳴り散らす男の隙をついてエレナはガラス片で抵抗しようとした。

 しかし、あと少しのところで腕をつかまれてしまった。

「ケッ、元気のいいお嬢ちゃんじゃねえかよ」

 奪い取ったガラスの破片を男が闇へ放り投げる。

 ガラスの破片はキラキラと輝きを放ちながら宙を舞う。

 すると、一条の光が闇に向かって伸びていき、それに呼応するかのように獣の遠吠えが聞こえてきた。

 ウォオオオオオン!

 服を剥ぎ取ろうとしていた男たちがぎょっとした表情で手を止める。

「な、なんだよ?」

 暗闇の中から足音が迫ってくる。

 男たちは迫り来る者の正体を見極めようとあたりを見回しているが、足音は四方八方から聞こえてくる。

 右かと思えば左、前と思えば後ろ、方角は変わっても足音はどんどん迫ってくる。

 変幻自在な足音に戸惑い、男たちは粗末なものをぶら下げたまま呆然と立ち上がった。

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