伯爵令嬢のつもりが悪役令嬢ザマァ婚約破棄&追放コンボで冥界の聖母になりました
「お父様、わたくし、今晩の婚約パーティーへ参りますの」

「そうか。いよいよか」と、かすれた声で伯爵がつぶやく。「わしは行けぬが、心配はあるまい。我が伯爵家の名誉にかけても、このたびの婚姻を無事に成立させねばならぬ。そなたも母から受け継いだ誇りと気品を忘れるではないぞ」

「はい、お父様」

 娘として従順な返事をしながらも、エレナの心の中では不満が渦巻いていた。

 貴族というのはなんとも面倒なものだ。

 格式やら気品やらしきたりだの、守るべき決まり事が多すぎる。

 それが庶民と貴族を分け隔てるものだとはいえ、そこまで大切なものなのか。

 彼女は父のやつれた姿を見るにつけ、いつも疑問に思うのだった。

 かといって、それを今言っても仕方のないことだ。

 エレナは父に微笑みを作って見せた。

「このたびのことが無事に済みましたら、お父様も気候の良いところに転地療養をなさってくださいな」

 骨張った手に力を込めながら父がうなずく。

「今後のことはそなたに任せておけば、わしも、ゴホッ……安心じゃな」

 声を出そうとすると咳が止まらなくなってしまうようだ。

 エレナは枕元に置かれた吸い飲みを取り上げて、冷めた薬用茶を父の口にふくませた。

 しばらくして呼吸が落ち着くと、父は目を閉じた。

 まるで蝋人形のようだ。

 エレナは冷たい父の手を毛布の中に入れた。

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