イミテーション・ハネムーン




「わぁ!綺麗!」

展望台からの景色に、私は思わず声を上げた。
山の緑と、鮮やかな桜の桃色が、見事なコントラストを生み出していた。



「良い季節に来たよね。」

圭吾さんがそう言って微笑む。
本当に癒される笑顔だ。
この人を選んで良かった…心の底からそう思えた。
きっと、私の最後の旅行はこの人のおかげで楽しいものになるだろう。
風景を撮影する圭吾さんの後ろ姿を見ながら、私はそんなことを思った。



「良かったら、一緒に撮りましょうか?」

かけられた声に振り向くと、人の好さそうなおじさんが立っていた。



「ありがとうございます。
せっかくだから、撮っていただこうよ。」

「そ、そうね。」

私の腰に、圭吾さんの腕がそっと回された。
なんだか気恥ずかしいけど、いやな気はしない。



「はい、チーズ!」

私は、カメラに向かって微笑んだ。



「どうもありがとうございました。」

「夫婦でご旅行ですか?」

「ええ、実は新婚旅行なんですよ。」

「そうだったんですか、それはおめでとうございます。」

おじさんの言葉に、少しだけ後ろめたさのようなものを感じた。
それと同時に、そんな嘘をさらっと言ってのける圭吾さんをなんだか不快に感じてしまってた。


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