プラチナー3rdーfor Valentine
『あー、そりゃお前が悪いよ、和久田』
夕方の松下とのいざこざを同期で友達の高梨に話したら、彼からはそんな言葉が返って来た。高梨は営業部の所属で、松下がまだ浜嶋に横恋慕していた頃に一緒に花火を見に行った。人懐こい性格でどんな交友関係にも男女関係なく食い込んでくるのが、この男の凄い所だ。当然松下と仲良くなるのにも時間はかからなかった。
「手作りチョコがそんなに難しいって知らんかっただけだろ」
電話口でごちると、高梨はばっかだねえ、と呆れた声で言った。
『過去の恋人と比べられて嬉しい恋人が居るかよ。それも悪い方に』
「作れないなんて知らないから、悪い方に比べたなんて思う訳ないだろ」
ぶつぶつ言う和久田に、チョコレートは本当に難しいらしいという話をしてやる。
『松下は食べ物作る方面に関して器用だと思うよ? だって、俺、松下手作りのパウンドケーキもらったことあるもん。その松下が難しいって言うんだから、ホントに難しいんだろ』
拗ねてる親友に、半ば自慢のようにひけらかすと、和久田は電話口で、ええっ!? と叫び声をあげた。
「なにそれ! 松下の手作りケーキなんて、聞いたことないぞ!?」
『そりゃそうだよ、言ったことないもん。でも、笠原とかとで飯食いに行ったときに作ったんだって言って手作りのケーキ持ってきてくれたの。美味かったよ~』
ぐぎぎ、と奥歯を噛みしめてしまう。何故高梨が松下の手作りを食べられて、和久田が松下の手作りを食べられないんだろう。
「なんだよ、不公平! 高梨は単なる友達で、俺は恋人なのに……」
『言っとくけど、ケーキ貰ったのはもう何年も前のことだから、それ、松下に当たるなよ?』
電話口で言葉に詰まる友達に、やれやれと肩を竦める。それだけ本気だってことだよなあとは思うけど、それが松下に通じてないのでは話にならない。