Livre magie〜桜色の魔女〜

残された僕たちは、手元にある本を見つめる。「海色の魔法使い」は、貧しい暮らしをしていた女性が捨て猫に優しくしているところを王子様に見られ、その女性に恋をした王子様に求婚されるというものだ。

「父さんの話によると、ノワールがこの小説の中に入るには書き出しを言わなきゃいけないらしい。帰る時は最後の文章を読んで帰れる。だからあの時、何でノワールは小説の中に入れたんだろうな……」

リオンはそう不思議そうに言うが、今はこの小説の中に閉じ込められた人を助け出さないと！

「とある浜辺には、幽霊が出るという噂があった」

僕がそう書き出しを言った刹那、目の前が白い光に包まれた。



ザアッと遠くからさざなみの音が聞こえてきて、僕はそっと目を開けた。僕とリオンがいるのは森の中だ。でも、海が近いため波の音や塩の香りがする。

「ここはもう小説の世界なんだな……」

リオンが僕らの住む森とは違った景色にあちこち興味津々に見回す中、僕は遠くに耳を澄ませた。波の音に混じって何か聞こえてくる気がする……。

「トゥリンガ！」