会長サマと、夢と恋。
11.会長と、夏休み。
翌日、夏休みで生活リズムが崩れていたこともあり、目が覚めたのはとっくに「朝」とは呼べない時間だった。
待ち合わせが午後からで本当によかったと思う。
顔を洗って、朝食兼昼食を食べて、……ほんの少し、メイクをする。
とは言っても、透明なマスカラとフェイスパウダーを肌にのせたぐらいだ。
きっと岸会長は気づかないだろう。
昨晩のうちに決めていた服に着替えると、まだ少しだけ時間に余裕があるので、洗面所に行ってヘアアイロンのスイッチを入れた。
学校に行くときはいつも、面倒で縛ってしまう髪。それをストレートに整えていく。
(会長は、何も行ってくれないだろうけど、それでも)
アキとミナミに渡したマンガのネームの中に、主人公が好きな相手のために一生懸命オシャレをするシーンがある。
まるで、自分で作った物語の登場人物みたいだな、って思うとちょっとだけ頬が緩んだ。
待ち合わせまでは、少し時間があるけど、先に行って待っているのも悪くないよね。
ちょうど、駅まで行ける市内循環の百円バスが通っていたのでそれに乗った。
少し道が混んでいたけど、それでも駅に着いたのは十二時四十分。
待ち合わせの時計台の下にはまだ、会長らしき人の姿はない。
ドキドキしながら、鏡を取り出して色付きのリップを塗っていると。
「おい」
「‼︎」
突然後ろから低い声がして、リップを落としそうになる。