会長サマと、夢と恋。


「か、会長⁉︎ ……って、え?」

振り返ると、岸会長……なんだけど、雰囲気が普段と違っていて、一瞬目を疑ってしまった。

……だって、いつもキッチリ制服を着こなしている様子からは想像できない、ラフなTシャツに、デニム姿。
そして何より、

「会長……今日はメガネじゃないんですか?」
岸会長といえば、って感じの、トレードマークのメガネがない。

わたしの質問に、会長は大きな目を面白くなさそうに細めた。
「……変か」

「い、いえ! めずらしいなって、思っただけで! むしろ……」

さっきから、わたしたちの横を通る女の人は、決まって会長の顔をちらっと見て行く気がする。

「むしろ?」

「……なんでもないです」

かっこいいので、やめてください。なんて、言えるはずない……。
会長、学校でメガネはずしたら、川西先輩より人気出ちゃうんじゃないかな。

「メガネ、妹に踏まれて修理中なんだよ。スマホに続いて……ほんとついてねぇ」

「会長、妹さんがいるんですか?」

「ん? ああ……まだ小さいけどな」

「歳、離れてるんですね……絶対可愛いですね!」

「いたずらばっかりで困る」

会長、お兄さんだったんだ。なんだかんだ言いながら口元が緩んでいる会長が可愛く思える。

「……なんだよじっと見て。やっぱりメガネないと変なのか」

「違っ……、変じゃないです! いいと思います!」

「ふぅん。まぁいい、行くぞ」

「はい!」

コンタクトが慣れてないのか、今日の会長はしかめっ面が多い。
スタスタと歩く会長の後に続いて、やってきたのは駅の裏手にある市の図書館。

(……ですよね)
ちょっとだけ……ほんの少しだけ。

待ち合わせで会ったとき、「まるでデートみたい」って思ってしまった。
このまま、勉強なんかしないで街に出かけるんじゃないかって。

でも、そんな都合のいい想像をしていたってバレたら怒られてしまいそうだけど。

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