会長サマと、夢と恋。
あまり人がいない、階段のほうまで行ってひかりちゃんと話す。
「さっき連絡したんだけど、既読つかないんだもん〜」
「ご、ごめん」
なんとなく、携帯ばかり気にしてしまう自分が嫌で。
音が鳴らないようにサイレントモードにしたまま放置していた。
「もう立候補の紙出した? わたしはさっき提出したんだけど、なんか実感わいてドキドキしてきちゃって」
「……えっと、ひかりちゃん」
わたしが「選挙に出るのをやめた」と伝えると、彼女は耳に響くような大声をだして驚いた。
「なっ、なんで⁉︎ どうして⁉︎ 一緒に頑張りたかったのに〜」
彼女には一切、悪気がないってことはわかっている。
だから「ひかりちゃんに勝てるはずないから」なんて、本当の理由は言いづらくて。
「え、えーっと……ほら、推薦人が見つからなくて」
とっさにそう言うと、ひかりちゃんは首を傾げて、
「岸さんに頼まないの?」
と聞いてきた。
(正直、その名前は、聞きたくなかった……。)
「……岸会長、忙しいみたいだから」
「そっかぁ……。あ、じゃあ、川西さんは⁉︎」
ナイスアイデア、と言うように笑顔で言うひかりちゃんに、あいまいな笑みを返す。
結局、「わたしもいろいろ忙しくなっちゃって」と言ったら、ひかりちゃんは渋々納得してくれた。
「陽菜子ちゃんも一緒に出てくれたら、心強かったんだけどなぁ。ちょっと残念」
そう言って自分の棟へ帰っていくひかりちゃんの後ろ姿を見てため息をつく。
……わたしも、ひかりちゃんみたいに前向きで自分に自信があったらよかったな。