会長サマと、夢と恋。
「……どうしても、AO推薦を受けるのか?」
川西先輩の姿を探しながら通りかかった三年生の教室のフロアで、大きな話し声が聞こえて立ち止まる。
「はい。願書はもう、準備できています」
先生らしき人の声に淡々と答えている、この声は。
(岸会長……?)
(き、気になる……。チラッと、のぞくだけなら……)
結局まだ、岸会長のことが好きなわたしはどうしてもその会話が気になってしまって。
声が聞こえた3年5組の教室を、開いていたドアからバレないようにのぞきこんだ。
岸会長と話しているのは、会長たちの担任で進路指導の係の先生だ。
全校集会などで、進路についての話があるときに前に出てくる。
「今の岸の学力なら、一般受験のほうが確実だろ」
「……ですが」
「第一、過去にウチの学校からあの大学に推薦で入った生徒はいない。そのぶん学校側の見る目も厳しくなってるはずだ」
「……」
……会長が「行きたい」と話していた、隣県で一番の大学。
確かあのときは、模試でA判定だと言っていた。S判定を目指す、とも。
……一番最初に聞こえた「AO入試」っていうのは、確か自己推薦入試のことだ。
もちろん大学ごとに違うだろうけど、わたしが聞いたことあるのは、自分で自分の推薦文を書いてエントリーしたり、決められた課題でプレゼンしたりする……とか。
つまり、会長は学力で合格圏内なのに、同じ高校の推薦入試を受けようとしていて、先生に止められている、みたい。
前に川西先輩が「岸くん進路変えたみたい」って言っていたのを思い出した。きっと、このことだったんだ。
それにしても会長、どうしたんだろう。先生の言う通り、普通の試験で十分受かりそうなのに。