会長サマと、夢と恋。

川西先輩はあの後、正式に高沼先輩の推薦人を引き受けたようで安心していた。

それでもあれから話すことはなかったので、急に声をかけられたことに驚いていると。

「……この前はごめん。これ、岸くんから預かった」

本当に小さな声で、しかも早口で。
そう言ってわたしの手に紙を握らせると、すぐに元いた場所に戻っていった。

……きっと、わたしの前にいる長沢先輩に気づかれたくなかったんだな、って察する。

(……って、岸会長⁉︎)

渡された紙をひらくと、それは……いつか会長が言っていた、演説の原稿で。

実際に使っていたものらしく、ところどころに会長の字で「抑揚」「原稿を見過ぎない」などのメモが書き込んであった。

(会長、わたしが選挙に出るって、知ってたんだな……)

生徒会役員なんだから今年の立候補者を把握してるのはきっと当たり前なんだろうけど。
それでも、怒らせてしまったのに、約束通りこうしてサポートをしてくれることが嬉しい。

それと同時に、平気で優しいことをする会長に、気持ちがまた込み上げてきて。
今はそれどころじゃない、と言い聞かせるように頭を振った。

きっと今日は、会長も入試の面接やプレゼンを頑張っている。
わたしも、少しだけ気合が入った。


< 152 / 177 >

この作品をシェア

pagetop