会長サマと、夢と恋。

「……ぜ、全校生のみなさん、こんにちは。生徒会庶務に立候補した、橋本陽菜子です。わたしは、この学校の歴史ある校風や伝統を守るとともに、みなさんの、よ、より良い学校生活の手助けをしたいと思いー……」

出だしから噛んでしまって焦るけれど、なんとか持ち直して、ひたすら台本を読む。
当たり障りのない内容の、完璧な文章だ。

(大丈夫、これをただ、読むだけ)

会長が使っていた台本だから、間違いないはず。
それに今日は、逃げずにこうして選挙に出たことに意味があるんだもん。

それに、少し色褪せている、綺麗な会長の字を追っていると、落ち着いて読めるような気がする。

「……部活動についてのサポートも全力で行い、また各学科ごとに勉強しやすい環境作りを……」

(あれ?)

原稿も半分を過ぎて、二枚目をめくって。
そこで、最後にあいた余白に、真新しい様子の書き込みがあることに気づいた。


『この台本は、あくまで一例だ。お前の気持ちを丁寧に話せば伝わる。大丈夫』


黒いボールペンで書かれたその文章は、紛れもなく岸会長の字。

「大丈夫」
その言葉が、胸にすうっと入っていく。

(わたしの、伝えたいこと……)
止まってしまった演説に、体育館は少しざわついた。少し考えたあと、……わたしはその台本を折りたたむ。


「……わ、わたしは、本当は、みなさんのような部活動ではなく、マンガアニメ同好会に入っています」
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