会長サマと、夢と恋。
出会ってからのことを思い出すと、川西先輩が冗談を言うときはいつも、口元が隠されていて。
きっと癖なんだろうけど、本人も、そして岸会長も気づいていなかったみたいだ。
だから、真面目な顔で甘い言葉を言われても、わたしはそれがウソだと気づいてしまった。
「……お前、すごいな」
「女の勘ってやつかも、しれません……」
きっと、あんなことを言ったのは彼なりの理由があったんだろう。
さすがにそこまでは、わたしにはわからないけれどー……
「まあ、川西がこいつのこと、好きになるわけがないか」
「……なっ、会長、それどういう意味……」
「だってお前、ずっと、……たった一人に片想いしてるもんな」
会長が川西先輩のほうを見て言った言葉に、目を丸くする。
川西先輩は目をそらしてうつむいた。
……選挙は投票の時間になって、先ほどよりもざわつく中。
他の候補者たちが先に立ち去った、この舞台袖の小さな控え室に残っているのはわたしたち3人だけだった。
川西先輩が、片想い。その相手は……
「なんて言われたかわかんないけど、言いなりになって偽の告白までやらされて。それでさおりが振り向くと思うのか」
(……‼︎)
……川西先輩が好きな相手は、長沢先輩。
近くにいて、ウソをつくときの癖は見抜けても、その気持ちには気づけなかった。