会長サマと、夢と恋。
「さ、さすがにそんなことしませんよ! 昨日は早く寝ました!」
「……」
「これは、さっき! 生徒会の集合かかって、お昼食べに家に帰ったときに急いで焼いたんです」
……わたしがお昼に家にいた時間なんて、せいぜい1時間もないぐらいだった。
そんな時間で生地を作って、焼いて、粗熱をとってキレイにラッピングして……、なんてできるはずがない。
恐る恐る会長の顔を見ると、「ふぅん」と納得したようで、わたしの手から赤いモールのほうのラッピング袋を受け取ってくれた。
どうやら会長も川西先輩も「クッキーを作るのにかかる時間」を知らなかったみたい。
わたしの苦しい言い訳を、信じてもらえようでホッとする。
「お前、こんな女の子らしいこともできるんだな」
感心したようにそれを眺める岸会長は、「帰ってからゆっくり食う」と言ってそのままカバンにしまった。
……よかった、今すぐ開けなくて。
でもこれで、会長の勉強疲れが少しでもマシになるといいな。
「あ、じゃあわたし、ここで」
「陽菜子ちゃん、一人で大丈夫?」
「ありがとうございます、でも大丈夫です! 失礼します」
駅のほうへ向かう会長たちにおじぎして、少し小走りで家のほうへ。
……だって、なんとなく気恥ずかしいから。
家に帰って、今日ぐらいは、と思って勉強を休んでゆっくりしているとスマホが鳴った。
『クッキー、美味かった』
待ち受け画面に表示された、たったそれだけの文章。差出人は、……岸会長。