会長サマと、夢と恋。
「なっ、なんとかならないですか⁉︎ 次から気をつけるので……!」
今回だけは見逃してもらえないかと食い下がってみるけど、先生は首を振った。
「ただ、採点してみたら96点なんだよなぁ、お前。クラストップのやつと同じ点数」
「え……」
「普通なら名前の書き忘れは0点なんだけどな。頑張って勉強したんだろ?」
「はい! それはもう、すごく、頑張りました!」
悪魔のような会長にバカにされながら、(ときめきもあったけど……)勉強した日々。
それが全部無駄になっちゃうなんて悲しすぎるし、……こんなことで0点なんて取ったら、会長に何を言われるか想像しただけで背筋が凍る。
「俺も鬼じゃないからな、これでどうだ」
そう言って笑った先生は、点数欄のところに赤ペンで「96」と書いた。
先生が神様に見えて、ありがとうございます、と叫ぼうとした瞬間。
「まあ、これに懲りたら次からは気をつけるように」
その横にさらに、「―30」と書き足されて、目を見開く。
「え、ウソ……」
「66点もらえるだけ、ラッキーだと思え。それでもクラス平均よりは上だから。じゃあ教室戻っていいぞ」
一転して、神様なんていないんだって、実感したような気がした。
職員室を出て、答案を握りしめながら、泣きそうになるのをぐっとこらえる。
(どうしよう、どうしよう……!)
今どき名前書き忘れて減点、なんてPTAが訴えれば勝てるやつ?
いや、でもうちのお母さんは「名前書き忘れたアンタが悪い」って言いそう……!
先生は、学期末の成績をつけるときは実際の点数で考慮してくれるって言っていた。
ただ、今回のテストの結果が「六十六点」なのは変わらなくて、そのまま順位に反映されてしまう。
少しでも学年順位を上げたい私にとって、三十点の差は大きい。上位になればなるほど、わずかな差が順位の壁になる。
「……あれ。陽菜子ちゃん?」
職員室の前の廊下で、聞きなれた声に名前を呼ばれる。
振り向いて、川西先輩の顔を見た瞬間、それまで我慢していた涙があふれてきた。