会長サマと、夢と恋。
「えっ、ちょっと、どうしたの⁉︎」
「川西先輩〜、やらかしました〜!」
いきなり泣き始めたわたしに驚いたであろう川西先輩は、持っていたノートの束を素早く職員室に運ぶと、わたしのところに戻ってきてくれた。
保健室前の、人気のないところへ連れて行かれる。
「実は……」
わたしが差し出した、ぐしゃぐしゃの答案用紙。
それを見て少し考えて、全てを察したらしい川西先輩は、苦笑いを浮かべた。
「……いやー、なんと言ったらいいか……」
「どうしましょう……、会長、怒りますよね……?」
「間違いなくグチグチ言うだろうね」
川西先輩がこう言うんだもん、会長が怒るのは確定だ。
「見せなきゃいいんじゃないの? 岸くんに」
「でも、順位表に点数も書かれちゃいますよ」
「フツーに、頑張ったけど、66点だったって言えば?」
なるほど、名案!
……って思ったけど、すぐ心の中がモヤってする。
どんな言い訳をしても、「何やってんだ」って言われてしまいそうな気がする。
こんなふうに思うなんて、前までの自分じゃ、想像もできなかった。
前ならきっと、それっぽい言い訳をたくさん並べて、「できなかったんだから仕方ないじゃないですか」なんて、開き直って。
呆れられてしまったらそれはそれでいい、って思っていたはず。
今、そう思わないのは、相手が岸会長だからなのかな……。
「陽菜子ちゃん?」
「川西先輩……わたし」
涙が止まった目で川西先輩を見ると、先輩は少しだけ笑ってから、手で口元をおおって呟いた。
「俺、陽菜子ちゃんのその目に弱いなぁ」
「え?」
なんて言ったのか聞こえなくて、聞き返したけど先輩は首を振って。
「大丈夫だよ。もし怒られそうになったら一緒に謝ってあげるから、心配しないで」
わたしの肩をポンって叩いて、その場を去っていった。
「……?」
心配しないで、と言われても、結果は会長に見せないといけない。
(正直に言って謝ろう、かな)
素直に謝れば会長もそこまで怒ったりしないよね、なんて思っていたんだけど……。