会長サマと、夢と恋。
すぐに離れた、大きな手。
……一瞬のことで、何が起きたかわからなくて、自分の頭の会長の手が置かれたところに思わず触れる。
「順位……50位以内じゃ……、」
「さすがに今回いきなり50位ってのは厳しいと思ってた。まずは二桁、って考えてたんだが……まさかここまで順位を上げるとは」
ぽかん、って表情をしてるって自分でわかる。そのぐらい衝撃的な会長のセリフ。
「俺も、教えたかいがある」
満足げな表情を浮かべた会長に、胸がドキッとする。
何それ。なんでそんなに、優しいこと言うの。
最初はひどいことばかり言ってたのに、どんどん優しくなるの、やめてほしい。
会長のこと、好きって気持ちで、ときめいたのが半分。
あとの半分はー……
「あ、あの、会長……」
気づいたら、声が出ていた。
ん? ってこっちを見る会長の眼鏡に、情けない表情のわたしがうつってる。
もう、引き返せない。
「……現国、名前書き忘れたんです」
「……は?」
わたしはカバンからシワだらけの現国の答案を取り出すと、会長に差し出した。
会長は、信じられない、とでも言うような顔でそれを見ている。
「本当は、96点だったんですけど、減点されてそうなりました。普通に名前書いてたら、50位以内に入れたかもしれません」
「名前、って……小学生かよ……。見直し、するだろ普通。時間余らなかったのか?」
「余ったんですけど、……寝ちゃってて」
「‼︎」
シワシワの答案がさらにゆがんで、会長の手に力が入ったのがわかった。
……自分でも、なんでこんなにバカ正直にありのままを話しているのかわからない。
ただ、目の前の彼は、真っ直ぐな人だから。
わたしもこの人に、正直でいたいって思ったんだ。