会長サマと、夢と恋。
冗談だ、気の迷いだ、って言われてるうちに、自分の気持ちに自信がなくなってきちゃったみたい……。
「陽菜子ちゃんは、岸くんと恋人同士になりたいの?」
「うーん……そうでもないような、気がします」
わたしの言葉に首をかしげた川西先輩から、「じゃあなんで岸くんのことが好き、って思ったの?」って聞かれた。
最初に自覚したのは、岸会長と長沢先輩の過去の話を聞いたあたりから。
たぶん、「ヤキモチ」ってやつなんだと思う。
それから、夢に出てきたことも一つ。
そして、決定的だったのは、
「夢の話を、聞いたときに……」
確かあのときは、川西先輩も一緒にいた。
岸会長が将来、先生になりたいって思っている夢を聞いたときに、なんだか無性に応援したいって思ったんだ。
「うーん……。ねぇ、陽菜子ちゃん」
わたしの話を聞いた川西先輩が、急に真面目な顔になってこっちに向き合う。
「実は俺、将来は美容師になりたいんだ」
「え、そ、そうなんですか?」
急に先輩の夢の話をされて、おどろいたけど……頭の中にハサミを握る川西先輩が思い浮かんだ。
「なんだか、すごく似合ってますね。想像できます」
先輩は器用そうだし、話し上手だから美容師に向いている気がする。
「それだけ?」
「……はい?」
「岸くんの夢を聞いたときと、いま俺の夢を聞いたのとでは、どう違った?」
「え……」
なんだか、いつもの川西先輩じゃないみたいで、少し怖いような気がする。
こんなことを言ったら、失礼だろうか。でも、わたしの正直な気持ちは。
「……夢が知れたときの、嬉しさが違うような、気がします」
会長の夢を聞いたとき、心の底から応援して、できればそれを支えたいなんて大それたことを思ってしまった。
だけどいま、川西先輩の夢を聞いて、凄いと思ったし、応援もしたいけど、「嬉しい」って感情はなくて。この違いは、もしかしたら。
「やっぱりわたし、岸会長のことが好きなのかもしれません」
そう呟いたら、川西先輩は「そっか」って言って微妙な表情をしていた。