会長サマと、夢と恋。
「フラれたのは会長のほう、って言ってて……、でもいま付き合いたがってるのは長沢先輩のほうで。正直、意味がわからなくて」
岸会長の過去の恋愛なんて、気にする権利ないってわかってるけどそれでも、知りたいと思ってしまう。
「……じゃあ、この話を俺から聞いたことも絶対ナイショね?」
わたしがうなずくと、川西先輩は話しはじめた。
「まず、俺と岸くんが同じ中学で、隣町の塾に通ってたんだけど、そこで別の中学からきてたさおりちゃんと出会ったのねー……」
川西先輩の話をまとめると、岸会長は一番頭がいいAクラス、川西先輩と長沢先輩はBクラスだったらしい。
岸会長は当時、ドライではあるけど今ほど冷たくはなくて。
周りの女子とも普通に喋っていた。
そして、県で一番の進学校・橘学園を目指して勉強してたみたい。
今通っている泉西高校も地区では進学校だけど、橘学園とは偏差値が5以上違う。
会長の塾の成績はトップで、橘学園への合格率もS判定だった。
しかし、合格確実、と言われていた岸会長の成績は、三年生の夏ごろから少しずつ下りはじめる。
「岸くん、すごく頭いいんだね。わたしにも勉強教えてほしいな」
三年になってから塾に入ってきた長沢先輩は、急激に岸会長に接近して。
夏ごろにはすでに付き合いはじめていた、らしい。
恋人同士のイベント、夏祭り、誕生日、クリスマス……その度に、それまで交際経験のなかった岸会長は川西先輩に相談しながら、長沢先輩のために頑張っていた。
「正直、すごく意外だと思ったよ。岸くん、好きになった相手にはこんなに尽くすタイプだったんだ、って。もちろん、俺にできることは全力で応援してた」
しかしそのぶん、岸会長の成績は少しずつ落ちていき、最終的に橘学園は不合格。
一期選抜で先に合格していた長沢先輩と同じ、この泉西高校に通うことになった。
「そりゃ、落ち込んでたよ。恋愛と勉強を両立できなかった自分のメンタルの弱さが原因だって。でも、”勉強なら、県トップ校にこだわらなくても自分の努力しだいでどうにでもできる””さおりと同じ高校に通えるから、俺はそれも嬉しいし、きっとさおりも喜んでくれるはずだ”って言って、胸を張って報告に行った。そしたらー……」
意外だった。中学時代のこととはいえ、岸会長がそこまで恋愛に夢中になっていたなんて。
今の様子からは想像もつかない話に驚いたけど、話の続きはさらに衝撃的な展開だった。