会長サマと、夢と恋。

「さおりちゃんに言われたんだって。“橘学園に行くと思ったから、付き合ってたのに”って。……つまり、さおりちゃんは「橘学園に通ってる彼氏」が欲しかっただけで、岸くんのことを好きなわけじゃなかった」

……自分のことじゃないのに、目の前が真っ暗になって、そして後から怒りがふつふつとこみ上げてくる。

会長が「フラれた」って言っていたのはこのことだったんだ。

「じゃあなんで今、長沢先輩は岸会長のことを……?」

「それは、たぶん……」

岸会長はこの高校に入学して、悔しさをバネにとにかく「1番」でいようと努力した。
成績は当たり前のように学年一位、そして、学校のトップである、生徒会会長の座へ。

昨年、岸会長が生徒会選挙に出ることが決まったとき。
副会長に立候補してきたのが、入学してからそれまで一切関わってこなかった長沢先輩だった。

「わたしをまた、岸くんの隣に置いてほしいんだけど」

つまり、この学校で1番将来有望な岸会長に、再び目をつけたってこと。

選挙の結果、二人は順当に当選し同じ生徒会へ。

自分を傷つけた相手を、岸会長は許した。
……許すというより、「なかったこと」にしたのかもしれない。

長沢先輩の気持ちに応えていないのがまだ救いだけど……。

「最低じゃないですか……」

歯をくいしばるわたしの肩を先輩がポンポンと叩く。

「でもまぁ、岸くんはハッキリ拒絶してるから。さおりちゃんとどうにかなる、ってことはないと思うけど……、ある意味“恋愛恐怖症”になっちゃったのが心配」

「恋愛恐怖症……」

「うん。高校では必要以上に女の子と関わらなくなったし、たまに告白されることがあっても、全部断ってるよ。『勘違いだ』って」

「‼︎」

勘違い。わたしが言われたのと、同じ言葉。
さっき長沢先輩も言われていた。

「せっかく勇気出して告白しても、気持ちごと否定されちゃ女の子は悲しいよねぇ」
「……」
「岸くん、また恋愛できるようになるのかなぁ」

会長を傷つけておきながら、また近付こうとしている長沢先輩への怒り。
それから、人の好意を信じられなくなってしまった会長への、やりきれない気持ち。

「まぁ、そういうわけで。岸くんのことを好きになっても、期待はしないほうがいいよ……って、陽菜子ちゃん⁉︎」

川西先輩がまだ話している途中だったのに、気づいたら駆け出していた。

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