会長サマと、夢と恋。

走っているのと同じ感覚で、一階まで階段を降りる。

さっき会長は下のフロアに向かってたから、もう帰っちゃったかな。

だとしたら追いつけないよねー……

「あ、」

ふと、窓の外を見上げる。対角線上に見える、北校舎の4階。
灯りがついているのがわかって、今度は階段を駆け上がる。

そういえば長沢先輩に 『仕事がある』って言っていた。
さっき階段を降りたのは、生徒会室の鍵を取りに職員室へ行っただけだったのかも。

一瞬のうちに考えるのは、岸会長のことばかり。
勝手に不安になったり、心配になったりもする。付き合ってるわけでもない、のに。

(なんかわたし、キモチワルイ? でも、たぶん、これが『恋』だ)

わたしも長沢先輩のように、しつこくすがるようになってしまう日がくるのだろうか。
それは怖い。もしそうなったら、会長の近くにいるのはやめよう。

でも、今はー……。

「き、し、会長!」

いきなり生徒会室のドアを開けて現れたわたしを、会長は驚いた顔で見てる。
全力で走るなんて小学生の頃以来かも。運動部でもなければ、普段の体育だって苦手だ。
息が上がって、言葉が続かない。

「お、おい……そんな急いで来てどうした?」

「……はぁ、……はぁっ」

「急ぎで呼びつけてなんかなかったはずだが……」

「か、かいちょ、……あの!」

呼吸を整えながら、意外と近くまできていた会長に呼びかける。
わたしの勢いに押されたのか、会長が一歩身を引いたのがわかった。

「……なんだよ、どうした」


「わたし、やっぱり岸会長のことが、……好きです」


岸会長は驚いた顔のまま、その太い喉仏だけがごくりと動く。


「……昨日、言ったこと理解しなかったのか? その気持ちは……」

「勘違いじゃ、ないです。勘違いがどうかは、わたしが決めること、なので」

川西先輩が言っていたこと、その通りだと思う。

だとしたら、自分の気持ちに自信を持たなきゃ、「恋」は生まれないはず……!

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