会長サマと、夢と恋。
終業式は午前終わりで、みんな夏休みに向けて浮き足立って帰っていく。
わたしはさっきから何度もスマホをチェックしてはため息をついていた。
「陽菜子、帰んないのー? カラオケ行かない?」
「んー……、まだわからないから先に行ってていいよ? なにもなかったら合流するし」
「……なんか、陽菜子ちゃんの生活の中心って、生徒会、っていうか岸会長だよねぇ」
「え?」
「あー確かに。会長に呼ばれるの待ってるっていうか、どんなに予定あっても生徒会のほう優先しちゃうっていうか」
アキとミナミの言葉に、あわてて反論する。
「そんなことないよ、それに生徒会は”仕事”だから……」
「でも陽菜子ちゃん、生徒会役員なわけじゃないよね?」
普段あまり自分の思っていることを強く言わない性格のミナミが、さらに言葉を続ける。
「なんか陽菜子ちゃん、本来の目的を忘れちゃってる気がする。マンガアニメ部を存続させるっていう」
「確かにー。この前ネーム書くって言ってた日も結局最後まで会長の手伝いさせられて、まだネームできてないって言ってたしね」
二人の言葉をきいて、手にぎゅっと力がはいる。
確かに、そうなんだけど。そうかもしれないけど……
「……だって、マンガアニメ部存続のためには結局生徒会とつながりを持つしかないから、今はそっちで頑張ってるんじゃん。そんなこと言うなら、アキかミナミが役員目指す?」
「もちろん、それは感謝してるけどっ」
困り顔の二人の、目が見れなくなって、思わずそらす。
「……ごめん。カラオケは二人で行ってきて。ネーム、できたら連絡するから」
気まずい雰囲気のままアキとミナミと別れると、急に罪悪感がこみ上げてきた。
『陽菜子ちゃんの生活の中心って、生徒会、っていうか岸会長だよねぇ』
ミナミに言われた通りだ。「マンガ部のため」っていう理由をつけながら、会長の近くにいたいだけなのかもしれない。
「ネーム……」
ノートを開いてぼんやり考えた、平凡な女の子と人気者の先輩とのラブストーリー。
ありがちかもしれないけど、少女マンガの題材としてはいいと思うんだ。
出会って、最初は「キライ」って思うんだけど、優しい面を知って、好きになって……
王道すぎてつまらないかな? 一度フラれてみる? ……って、わたしみたいか。