会長サマと、夢と恋。

「だってそうでしょ? こんな妄想まで書いて」

「だからこれはっ」

「で? 『この意地悪なライバル』は、わたしのこと?」

先輩の長い指が、隠したノートを引っ張って、わたしがそこに書いた文字をなぞる。
考えていたライバルキャラ、確かに長沢先輩っぽいかもしれない……。
目をそらして、苦笑いするしかできない。

「い、いや……、あの」

「言っとくけどわたし、こんなにあっさり身を引いたりしないから」

「‼︎」

今まで笑っていた長沢先輩が、真剣な表情になる。
わたしの中では驚きと、戸惑いと、怒りと……いろいろな感情が込み上げてきて、思わず、

「なんで、ですか?」

と零してしまっていた。

その言葉を聞いた長沢先輩の眉がぴくりと動く。怒らせてしまった。でももう、一度出してしまった言葉は戻せない。

「……会長のこと、傷つけるのは……よくない、と思います」

本当は『やめてください』と言おうとしたけど、ギリギリのところで言葉を変えた。
だってわたしは会長の彼女でもなんでもないから、長沢先輩の行動を止める権利なんてない。  

だけど、岸会長にもう傷ついてほしくないっていう気持ちは本心で。

(もう、岸会長のことを振り回すのは、やめてほしい)

そう思って、泣きそうになりながら、長沢先輩の目を見る。

自分でも、生意気だと思うけどー……。

先輩もわたしから目をそらすことなく、答えてくる。

「……橋本さん、もしかして全部知ってる? わたしと岸くんのこと」

「あ、えっと……」

「どうせ川西くんあたりから聞いたんでしょ? どんな風に聞いたか知らないけど、でも、」

長沢先輩はそこで一度言葉を切って、顔にかかった髪を耳にかけて。
小さく息を吸うと、

「……今は本当に好きなの。岸くんのことが」

って、それまでのイメージにはない、すごく小さな声で言った。

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